前編では、楽譜を読み解くことで見えてくる発見や、子どもたちが自分で気づくことの大切さについてお話ししました。
では、楽譜の中にある作曲家からのメッセージを見つけたら、それで終わりなのでしょうか。
私は、そうではないと思っています。
作曲家のメッセージを受け取る
楽譜を丁寧に読み解いていくと、音楽の流れや、作曲家がどんなことを伝えようとしているのかが、少しずつ見えてきます。
でも、そこから先が、また面白いのです。
作曲家が込めた思いを受け取りながら、今度は自分自身の気持ちや経験を重ねていく。
同じ楽譜を見ていても、そこから感じることは、一人ひとり違うかもしれません。
悲しいと感じる人もいれば、懐かしさを感じる人もいる。
音楽を通して、自分の中にあるものに気づくこともあるのです。
感じたことを、音にするために
もちろん、感じたことをそのまま音にできるとは限りません。
音の方向やフレーズの流れ、音色や響き。
自分が表現したいことを音にするためには、それを支えるテクニックも必要です。
ピアノを弾くということは、実に多くの感覚や認知機能を同時に働かせる、複雑な活動です。
楽譜から音符やリズム、音楽記号などの視覚情報を読み取り、脳で処理し、これから奏でる音をイメージする。
そして、そのイメージを実現するために、指や手の動きを細やかに調整し、鍵盤に触れる感覚を捉えながら、自分が奏でた音を耳で聴き取る。
さらに、聴こえてきた音と自分が思い描いた音を照らし合わせ、必要に応じて指の動きやタッチを調整していきます。
視覚・聴覚・運動感覚を連携させながら、音楽をつくり上げていく。
ピアノ演奏は、まさにマルチタスクなのです。
だからこそ、ただ間違えずに弾くのではなく、自分が思い描いた音楽を表現するために、テクニックを身につけていくことが大切なのだと思います。
感じたことを、どうやって音にする?
たとえば、「はい!」と返事をするとき。
元気よく「はーい!」と返事をするのか、
それとも「はい……」と弱々しく返事をするのか。
同じ「はい」でも、声の出し方や気持ちによって、ずいぶん違って聞こえますよね。
ピアノの音も同じです。
元気よく弾きたいのか、そっと語りかけるように弾きたいのか。
自分がイメージした音楽を、どうしたらピアノで表現できるのでしょう。
その方法を、子どもたちと一緒に考え、身につけていく。
私は、そんなレッスンを大切にしています。
楽譜を読み解くことも、テクニックを学ぶことも、すべては自分の音楽をつくるためにつながっています。
自分の音楽が生まれる瞬間
作曲家のメッセージを受け取り、そこに自分の思いや経験を重ねる。
そして、それを自分の音で表現できたとき。
ただ楽譜に書かれた音を弾いているのではなく、自分の中から音楽が生まれてくるような感覚があります。
それができたとき、「確かに私はここにいる」という気持ちになれます。
音楽を学ぶことは、ただ曲を弾けるようになることではなく、自分自身を知り、自分の思いに気づいていく旅でもあるのだと思います。
楽譜という宝の地図を手に、子どもたちが自分だけの音楽に出会っていく。
そんな時間を、これからも大切にしていきたいと思っています。















